視覚障碍者の方へ


  このサイトは、「絵点字フォント」という題名のホームページで、点字フォントを多数、配布しているサイトです。これらのフォントを使用すれば、墨点字をパソコンの文章作成ソフトで簡単に書くことができます。

  当サイトのレイアウトは複雑なので、音声読み上げ機能を利用される方々には不親切なサイトとなってしまいました。
  そこで、「絵点字フォント」のサイトの趣旨を以下にまとめてみた次第です。

  以下に示します内容は、大きくふたつです。
  まず、このサイトの概略と思惑。それから、さいきん提唱しはじめました「初級点字」についてです。

  初級点字というのは、現在の日本点字表記法2001年版とは異なりながらも、それと並存して使用できるよう工夫された、より簡潔で使いやすい点字の文法です。初心者や晴眼者にもすぐに習得できる、点字と活字とをつなぐような新しい点字の文法を目指しました。
  これに関しては、皆様のご意見をお待ちしていますので、ご一読ください。

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  さて、まずはこの「絵点字フォント」のサイトの概略からご紹介いたします。

  2002年の暮から、ふつうのパソコンのふつうの文章作成ソフトで、すらすらと書くことのできる墨点字フォントを製作、公開してまいりました。2007年暮のリニューアルを経て、現在では、墨点字フォントを約160種類、そして点字の点の部分をイラストにした絵点字フォントなるものを、数多く配布しています。

  見ながら点字を書くためのフォントですので、主に視覚障害者よりも晴眼者向けのサイトですが、ここですでに、疑問を持たれたかたもいらっしゃるでしょう。
  なぜ、点字なのにフォントを作るのか?ということです。点字は、目の不自由な人のための触読文字なのだから、目で読む点字などナンセンスではないのか?と。

  私は、これがむしろ面白いのではないかと考えました。
  
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  まず、点字の存在は誰もが知っている身近なものなのに、読める人がほとんどいない、という現状を思い浮かべてみてください。点字は現在、身近で実用性のある文字文化のなかで、最もマイナーな文字だと思います。

  それから、点字は紛れもなく立派な文字体系であるという面を再確認したいのです。
  文字には、文字というだけで人をひきつける魔力があります。ひらがな、カタカナ、漢字、アルファベット、はたまた梵字、ハングル、タイ文字。のみならずエジプト神聖文字、甲骨文字、トンパ文字、マヤ文字など古代のマイノリティに至るまで、私たちは興味を抱き、惹かれるのです。

  活字の文章を書く人間なら誰しも、字体を自由に選びたいと思うのが自然です。しかし、点字の印刷物に用いる点字フォントには、選ぶほど種類がなかったばかりか、点字フォント自体が数少なかったのです。
  墨点字フォントを私が制作・公開した当時、ワードや一太郎などふつうのワープロソフト上ですらすらと書いたり、いくつもの種類のデザインから選んで使用できるものは他にありませんでした。
 
  その後、せっかく目で見ながら使うのだから、淡白な点の連続を思い切って装飾してしまおう、という発想が出てきて、墨点字の点の部分をハートやコーヒー豆の形などに変えることで、絵点字フォントが生まれました。
  しばらくすると、点訳ボランティアの方々から、初心者に点字を教えるときなどに使用しています、というメールをいただくようになりました。

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  そのうちに私は、文字としての点字が、障害の有無に関わらず広がれば面白いかもしれない、と思うようになりました。これらのフォントで、晴眼者にも存分に点字に親しんでいただけたらという願いです。

  じつは、この発想に反論を唱える方は結構おられます。
  視覚障害者以外に、どうして点字が読める必要があるのか。
  あるいは、視覚障害者から点字を引き剥がすつもりなのか、という意見です。

  私は、多くの人が点字を読めないよりは、読めるに越したことはないと考えます。なぜなら、障害の有無というのは、体の状態を表しているに過ぎないからです。
  誰にも目が不自由になる可能性はあります。
  そもそも、健常者が障害者と同じ道具を使っていけないということもないはずです。手すりや杖は、脚が不自由でなくても使います。朗読テープを好んで使用する写真家や画家などもいることでしょう。

  障害があるからどうすべきだ、障害がないならどうこうしてはいけない、という意識は、障害の有無で人を分けることで、人間同士の間に壁を作ります。人は、身体障害によって行動が制限されることがあっても、固定観念で自由を阻害されてはいけないと思うのです。
  逆に、同じ道具、同じ文字を使用することは、障害の有無による文化的な垣根を取り払う一助になるはずです。

  ユニバーサルデザインという言葉があります。車椅子も入れるトイレ、持ちやすいスプーン。障害の有無を越えて、人にやさしいモノづくりがユニバーサルデザインです。
  一般に、健常者が占有していた文化を、障害者にも解放する、という方向性ですが、点字の場合は逆です。
  障害者が占有していた文化を、健常者にも解放するのです。
  しかも、モノそのものではなく、点字にまつわる認識や規則をこそ変革して、ユニバーサルデザイン化するのです。

  これまでの一般常識、すなわち、点字は障害者のためのものである、だから自分には関係ない。点字は障害者のためのものだから、障害者だけが使うべきだ。健常者には必要ないから、障害を持つことがあればその時に学べばそれでいい。もし健常者が点字を学ぶなら、ボランティアをしなければ意味がない。
  こういった常識を、私は壊していきたいのです。

  先ほど、障害者が占有していた文化、と書きましたが、よく考えるとこれは間違っています。活字の点訳だけに重点が置かれた点字文化では、晴眼者が視覚障害者に点字の占有使用を強いている、とも言えてしまうのです。

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  晴眼者を含めた大勢が、点字を読めて、自由に活用する。
  そうなれば、日本文化は点字という新しい表現を手に入れることになります。
  このことは晴眼者にとって有益なことですが、視覚障害者にも非常に有利な状況が生まれるでしょう。

  たとえば、点字の業界が活性化して、今よりも点字に関する出版物がたくさん生まれます。ツールも充実して流通するはずです。
  人々が点字に興味を持つことは、多かれ少なかれ視覚障害に関心を持つことにつながり、障害の有無を越えたコミュニケーションも話題も増えることでしょう。
  
  現状では、近年における急速な情報機器の発達で、点字の利用者は減少傾向にあります。
  国内で約35万人といわれる視覚障害者のうち、努力家で、かつ指先感覚が鋭く、さらに文字を切望する人のみが点字利用者であるとなれば、点字業界が活き活きしているほうが不思議なことです。
  この状況を覆すためにも、点字利用者の層を広げることには意味があります。当サイト「絵点字フォント」は、この現状に対する、ひとつの小さな挑戦だと思っています。

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  さて、次は「初級点字」に関してですが、これも同じく、点字をとりまく状況を何とかしようという試みのひとつです。

  現在の点訳現場では、日本点字表記法にのっとって行なうことになっていますが、点字の文法そのものに、先ほど述べたような一般認識が染み付いてしまっていると、私には感じます。
  
  一人前の点訳ボランティアになるのに数ヶ月を要し、熟練した点訳者でも表記辞典が不可欠という煩雑な規則。それはつまり、視覚障害者が読むための点字である、という短絡的な目的のみを達成するようにできているからです。
  
  点字は母国語に依拠するものなので、できるだけ手間いらずで習得できるように、それから使いやすいように、という二つの方向性があります。
  ところが、簡単に習得することは、なおざりにされ、使いやすいとは言ってもそれは読む側のことであって、書くのはとても難しい、というのが現在の点字規則です。

  なぜ、そうなっているのか。
  それは、点訳の唯一の目的が視覚障害者に読んでもらうことにあり、その点訳のためにこそ点字はある、とされていることに原因があると思われます。
  読み手が読みやすいように、読み手が読みやすいように、という意識だけがあって、書き手の書きやすさは配慮されず、まさか晴眼者が必要とはしまい、という意識が露骨に表れているのが、現在の点字点訳の周辺だと思います。
  
  しかし、先ほど触れましたように、点字は紛れもなく立派な文字体系なのです。文化にとって重要な文字というツールは、読みたい人が読み、書きたい人が書くことでこそ、活き活きとしてくるはずです。
  点字も例外ではありません。
  点字が一部の人々に読まれるだけのものでなく、多くの書き手がいて、書き手は読み手でもある、ということであれば、点字をとりまく世界はもっと面白いものになるのです。

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  さて、文法面の煩雑さを取り払う工夫が、新しく提唱している「初級点字」です。
  初級点字の目標は、点字を何も知らない人が3時間ほど勉強して、大体読み書きできるようになる、というものを目指しました。
  触読に関しては、それ以上の訓練や慣れが必要ですが、文法の知識という面では、可能かと思います。

  初級点字は、一般の点字表記法とはかなり違いますが、点字表記法に慣れた人には多少読みにくいかもしれませんが、可読性は100パーセント保持しています。

  ちょうど、英語の点字にはグレード1、2、3とあって、難易度や用途目的が異なる設定がなされています。
  この英文点字のグレード1にあたるのが、初級点字といってもよいでしょう。

  さて、初級点字を考えるときの前提として、現在の日本点字表記法と並存するようにしました。
  そうなれば、約10年毎に改正される正書法にも左右されないサブ的な表記法となります。点字に興味を持ったばかりの初心者が、すぐに点字に親しめるようになります。規則が簡潔なので、点訳ソフトで間違いのない自動点訳も可能になるでしょう。

  初級点字が活字と点字との架け橋になればと期待しています。
  より詳しい初級点字の内容をまとめましたので、「『初級点字』草案」のページをご一読くだされば幸いです。
      
  この初級点字については、現在、日本点字委員会に正書法の一部に汲み上げる検討をしていただくことを具申しております。
  皆さんの活発な意見交換をお願い申し上げます。


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                                                2008年4月 
                                 かさい はくう