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四半世紀も前のことだが、大学生になったばかりの頃、高校時代の友人の部屋にわいわい集まったとき、『坂の上の雲』(司馬遼太郎)について話題に上ったことがある。当時我々の間では皆が皆読んでいた小説だった。
ものぐさ者の友人がこう言った。
「誰か、要約版を出してくれればいいのに」
私も同感に思った。
『坂の上の雲』は、日清日露戦争の明治期、国家としての日本を担っていった有能な若者たちを描いた群像劇だが、文庫で8巻あるうちの後半はずっと海上の戦闘風景ばかりのため、延々と鋼鉄の甲板を見つめているような心地の読書感だったからだ。
それはさておき。
松岡正剛(まつおか・せいごう)という人物を、皆様はご存知だろうか?
押しも押されもせぬ一流の著名人である。
しかしご存知ない方も多い。知らない人は知らない。
私はずっと前からファンなので、首相や県知事よりも、またリンカーンやエジソンにも増して、自分の中では超・有名人なので、ご存知ないと聞くと驚いてしまうのだけれど。
読書好き本好きの過半数にとって馴染み深い、編集工学者・松岡正剛氏。彼が2001年から開始して現在にいたるまでウェブ上に展開している読書案内ブログ「千夜千冊」は、その長大さと濃厚さで知られている。2023年10月現在、1833夜を数える。
「松岡正剛の千夜千冊」
https://1000ya.isis.ne.jp/
バックナンバーINDEX全読譜(全リスト)
https://1000ya.isis.ne.jp/souran/index.php?vol=102
なお、2006年にいちど1144夜分までを収録した書籍版が出たことがあった。分厚い全8巻でセット価格10万円、1000組が即完売したという書籍版『松岡正剛 千夜千冊』である。
私は沖縄県立図書館から何度か借りてきたが、ここでも踏襲されていたのは、呆れるほどの破天荒な体裁であった。
https://www.kyuryudo.co.jp/shopdetail/035000000014/
それとは別に、「千夜千冊」は角川ソフィア文庫「千夜千冊」エディションとして、いま次々と文庫シリーズ化されている。文庫化は2018年5月から始まり、2023年9月先月で30巻目が出版された。ウェブ上の「千夜千冊」がテーマごとに再編集されブラッシュアップされた文庫のかたちで読めるということで、私も一時は買い揃えようとかと色めき立った。
ところがこれが書店で手にとってみると、なぜかは分からないが、なんだか〈普通な感じの読書案内本〉になってしまっていて、私には全然おもしろく感じられない。
もしかすると、ウェブ版「千夜千冊」特有の自由気ままな言葉の表現、冗長でもよしとする自由な長さ配分などの「千夜千冊」らしさが削り落とされてしまっているからなのだろうか。文庫という品の良い形式ですっかり優等生の風貌になり、書棚に静かに着席してしまった、――そんなふうだ。
さて。前置きが長くなった。
超長大で深遠なるウェブブログ「千夜千冊」を、ちょくちょくはかいつまんで読んでいたのだが、2016年になって私は「ぜんぶ読んでやる!」と心に決めた。虱潰しにランダムに読破できるようにチェックリストまで作ったし、遅読で足りなくなったためにそれを作り直したりした。同士がいたならばと、ダウンロード可能にもした。
http://www.kasainote.net/1000.pdf
しかし写真をご覧あれ。私は残念ながらまだまだ読了できていない。
しかもこれは、「案内され紹介された本」の読書のことではない。
松岡正剛「千夜千冊」ブログそのものの読み進め、についてである。
ほんとうは、着々と全読破して、さらに紹介されてある本も読破して、悠々と泰然と「千夜千冊」について書きたかった。しかし、まだ叶いそうにない。

「千夜千冊」をはじめてみる方には、ぜひご自身の興味分野の稿からどんどん噛り読みしていただきたい。おそらく、最初はすぐに満腹になる。
「こんなにたくさんあったら、どれから読めばよいかわからないよ〜!」
と放り出すひ弱な輩もいるだろう。21世紀初頭、短文こそ尊ばれる時代にあってはそれも仕方があるまい。
「千夜千冊」は巨大な闇鍋にも似ている。
バックナンバーINDEX全読譜(全リスト)
https://1000ya.isis.ne.jp/souran/index.php?vol=102
そこで、老婆心なのか自慢話なのか、私がこれまで読んだ中から〈傑作〉と思った稿をリンク付きでリストアップしておこう。まずはこの中から皆さん各々の興味をそそるブログに跳んで、命をかけるつもりでもって一文読み倒すのだ。及び腰では絶対に負ける。
現在までアップされている「松岡正剛の千夜千冊」は、1833夜。
このうちランダムに私が読んだのは、984夜分。
半分一寸ということか。その中から以下のものをリストアップする。
◯印(傑作稿)=219夜分。
◎印(大傑作稿)=3夜分。
×印(駄作稿)=4夜分。
さあ、「千夜千冊」傑作選リストの開帳である! どうぞ!
松岡正剛の
【千夜千冊】傑作選――(読評者:河西大地)
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